二つの大規模火災 その2・ロンドン集合住宅


その2は、ロンドンの集合住宅(グレンフェル・タワー)の火災についてです。

事件以降の報道や日経アーキテクチャーの報告記事から、検討します。
特に「日本の法律は厳しいから大丈夫」というような、まさに「対岸の火事」という目線で本当によいのか、という点が気になります。

ロンドン集合住宅火災の問題点

集合住宅は、1974年の建築で、地上から4層が事務所や公共施設、その上20層(×6戸=120戸)が低所得者層向けの公営住宅という構成です。
火元は、地上8階付近の住宅内ですが、火の回りが非常に早く、わずか1~2日で最上階まで焼き尽くされたという状況です。
焼損規模もさることながら、人的被害が大きいのが特徴で、約600人の住民のうち、約80人(以上と推定)が亡くなっています。

被害拡大の原因として指摘されているのは、以下の点。

  1. 二方向避難の欠如
    バルコニーがなく、階段も屋内中央のコア1箇所のみ。
    コア部分の防火区画については、確認できず。
  2. 可燃材料を使った外断熱の改修
    既存のRCの上に、硬質ウレタンフォームの一種で難燃性が高いポリイソシアヌレートフォーム、+金属板のカバーを設置していたとみられる。
    (断熱材が金属板内側の空隙で燃え広がり、かつ、金属板が外側からの消火を難しくしたとの指摘あり)

その他、移民の不法滞在者も多く暮らしており、この点が避難の遅れの原因になっていた可能性もあります。

当該ビルについては、従前より、安全性の懸念、改善を求める陳情等がなされていたが、未対応だったとのこと。
また、問題の断熱材ですが、緊急の調査により、同様の改修を行った住宅が60棟あると発表されており、これらは政治問題化しています。

日本の建物に問題はないか?

1.二方向避難の確保について

日本では、就寝の用に供する住宅、病院等を中心に、比較的徹底されていると思います。

建築基準法上、階の床面積が小さい場合、階段は1つになりますが、消防法令でバルコニー、避難器具の設置が義務付けられています。これは、古い建物も同じです。
但し、避難器具の場合、非常時に安全に使用できるかという問題があり、バルコニーにモノを置いている、定期点検を行っていない場合や、高齢者等の避難に不安はあります。

それ以上に不安があるのは、防火区画(階段等の竪穴区画)の形成です。この点は、先の物流倉庫と共通です。
特に、古い建物の場合、常閉の防火戸を開放して固定する、故障により常閉にならない、自火報連動が作動しない等、問題があるケースが多くみられます。

これらは、主に維持管理の問題であるため、所有者(管理組合)や住民の危機意識を高め、共有することが必要だと思います。


2.外断熱による延焼

外断熱から延焼する事例は、数年前のドバイでの火災など、海外の高層ビル火災でしばしば目にします。

外断熱工法は、温熱性能的には有利ですが、日本においては、外壁の防耐火性能との兼ね合いでコストがかかり、採用数が非常に限られています。
近年の省エネ志向の中で注目度は高まっていますが、諸外国の追従をするのではなく、日本独自の安全水準を下げることなく、普及して欲しいと思います。

特に、大臣認定のための防耐火試験は、一定の条件での性能確認に過ぎませんので、大きく燃え広がり、想定より高い温度に長時間晒された場合にどうなるか、致命的な問題が生じないかという点を、資材メーカーや設計者は考えるべきだと思います。

また、ロンドンほどの大規模なものはないとしても、安易な改修工事によって安全性を損なう事案は、日本でも数限りなくあります。
確認申請の要否に関わらず、設計者は法令を遵守し安全な建物を設計する義務があります。この点は、強く強調したい。
加えて、建築主に対し、正しく情報を伝え、安全に対する安易な妥協をしないという姿勢が必要だと思います。

結論:対岸の火事ではない。

最後に、
人的被害を減らす最大の対策は、正しい情報の伝達と理解、コミュニケーションです。
日本でも、日本語を解さない方々、文化が異なる方々が急速に増えており、対策は急務であると思われます。

そういった意味では、決して対岸の火事ではないと思います。