遠隔地での裁判対応 令和3年版


コロナ禍を契機として、裁判のIT化(リモート化)が少しずつ進んでいます。
最初の緊急事態宣言から1年と少し。
記録も兼ねて、令和3年6月末時点の状況をまとめてみます。

なお、裁判以外の法人対応業務(法律相談・契約書対応等)は、リモートがほぼ当たり前というところまで来ています。
リモートによるボーダーレス化は、当事務所のような法人を顧客とする領域を中心に、弁護士業界にも相当なインパクトがありそうです。

裁判手続のルールと運用

裁判は、公開の法廷で行うことが原則です。
「憲法第82条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。」

とはいえ、民事裁判における対審(口頭弁論)は、最初(初回を含め1~3回くらい)と最後(証人尋問、判決)程度で、途中の実質的審理は弁論準備手続(略して弁準)という非公開の場(小さい会議室に裁判所と両当事者のみ)で行われるのが一般的です。

基本的な民事裁判手続の進行については、
→ 裁判所のQ&A
をご参照ください。
なお、以下の説明は、当事者双方に代理人が就任していることを前提とします。
(本人訴訟は扱いが異なります。)

建築裁判では、ほとんどが2回目から弁準に移行し、大半が途中から、弁準と調停手続が併存する形になって進みます。
途中で和解が成立するパターンが多いので、テレビや映画のような法廷でのやりとりは(証人尋問)は稀にしかありません。

民事訴訟法の手続上、弁準は、一方が出廷すれば、他方はリモートでも成立します。
また、書面による準備手続という方法であれば、双方リモートとすることも可能とされています。
これらは、コロナ禍前から用いられてきました。

もっとも、コロナ禍前の実情は、
・電話会議のみ(平成30年から「テレビ会議」もあったが運用なし)
・遠隔地に限る
・双方リモートは(実感として)ほとんどなく、双方が遠隔地の場合は原告が出廷
でした。

これに対し、現状でリモートを希望した場合の扱いは、
・地裁本庁(県庁所在地)はTeamsによる「ウェブ会議」可
・遠隔地に限らない
・双方リモートも柔軟に対応可(書面による準備手続)
という状況となっています。

このような運用が開始されたのは、令和2年の秋ごろから。
1回目の緊急事態宣言から後、裁判手続が半年近く停止し、徐々に再開されていく中で、試行的な運用が拡大されていきました。
そして、令和2年12月から、全国の裁判所に展開されました。
ただし、大規模庁は部により運用が異なり、支部はまだ電話のみです。

最近、裁判所も代理人も、ようやくWEB会議に慣れてきた(?)感じがします。

なお、書面・証拠の提出は、未だファックスと郵送のみです。
この点も来年から試験的にウェブの活用が始まるとのことで、期待しています。

リモート建築裁判のメリット・デメリット

そもそも、通常の裁判は書面が中心で、弁準で踏み込んだ議論をするようなことはあまりありません。
しかし、建築裁判においては、裁判所からの質疑応答を通じて、技術的な点の理解を促し、裁判所に伝わっていない点を把握することが非常に重要となります。
その意味で、弁準でのやりとりを重視しています。

従来の電話会議は、代用品の扱いで、かつ顔が見えないため意思の疎通に難があり、あまり踏み込んだ議論になりにくいという問題がありました。
また、稀にですが、地方での電話会議で不利になった(と推察される)経験もありました。
(毎回、相手方本人が切々と窮乏を訴え、裁判所の専門委員が次第に相手方の心情に傾いていくのを、電話の向こうで感じました…。)

しかし、コロナ後のWEB会議は、もはや代用品ではありません。
画面の情報量はリアルには敵いませんが、コロナ対策の名の下、前向きに運用がされていますので、踏み込んだ議論も可能で、あまり不自由は感じていません。

現時点では、東京地裁の建築専門部の裁判全てと遠方の裁判を、リモートで対応しています。
(一般調停でも、電話対応は認められています。)
専門家調停(裁判所選任の建築士が入る審理)が始まったら必要に応じて出廷するなど、柔軟な使い分けがベストだと思います。

リモートの方が予定が入れやすいので、代理人の予定が合わなくて期日が先延ばしになるようなことも少ないと思われます。
この点は、特に多数当事者での裁判でメリットが大きいです。