建築士事務所の業務報酬基準
※ 平成31年告示第98号は、令和6年告示第8号の施行により廃止されましたが、参考までに告示第98号改定時のコラムを挙げておきます。
建築士法 告示第98号(平成31年1月制定)※廃止
建築士事務所の業務報酬の参考となるべき基準としては、建築士法第25条に基づく告示があります。
前回の平成21年国土交通省告示15号が10年に渡り用いられてきましたが、平成31年1月21日、新告示として平成31年国土交通省告示第98号が制定され、新たな報酬基準とされました。
変更点は、 ・標準業務に含まれない追加的業務の明確化
告示15号には実態との乖離が指摘されていましたが、国土交通省は、本告示の制定に向けて、中小事務所を含め数多くの事例調査を実施したとのこと。
業務報酬基準ガイドライン
今回の告示98号では、技術的助言に加えて、算出の具体例を含む詳細なガイドラインが策定されています。
前回の15号では、算出方法を解説したHPが途中で消滅したため、不自由や分からないことが色々と生じていました。
建築士会の説明会(東京)では、国交省の担当の方が、改正の問題意識を色々と説明されていましたが、告示に反映できなかったもので、ガイドラインに反映されているものもあります。
人件費単価は告示の枠外
業務報酬は、業務量と人件費単価(と経費の加算率)の掛け合わせですが、告示が定めているのは、略算による算定方法(計算式)と、別添の標準的な業務時間数であって、人件費単価は別に設定する必要があります。
そこで参考になるのが、 国交省が毎年発表する「設計業務委託等技術者単価」(公共事業の設計業務委託等の積算に用いるもの)です。
ただし、この単価については、技術者区分による単価の違いに注意してください。
告示の標準業務人・時間数(別表)は、一級建築士とし2年又は二級建築士として7年の実務経験を想定したもの(別添三の6)です。
異なる経験値の技術者が担当して異なる単価を用いる場合、換算率を用いて業務時間数を加減する調整をするのが、予定された使い方とのことですが、加減の方法などは、告示・技術的助言には書かれていません。
トラブルが非常に多い設計監理者の業務報酬
建築士業務について、どのような契約を結ぶかは原則として自由です。
しかし、発注者と設計事務所とは、必ずしも対等な立場にない場合も多いのが現状ですので、こうした参考となる物差しがあると、適正な範囲で報酬を決めやすくなります。
設計者平成26年の建築士法改正では、報酬基準に準拠すべしとする努力義務が追加されています(22条の3の4)。
建築士の業務報酬は、特にトラブルの多い分野です。
契約書の不備による業務報酬の未払い・金額の争いも少なくありませんが、業務の債務不履行を理由とする解除主張から、出来高算定、損害賠償との相殺という複雑なケースも多いです(このような場合、解決まで相当の時間と労力を要することになります)。
これらの問題における相当報酬や出来高の根拠を、告示の報酬基準の「略算方式」から引用して主張する場合があります。
弁護士にとっても、重要な告示であるといえます。