免震・制振ダンパー不適合事件について(第1報)

 

建築分野において、また、重大事件が発覚しました。

建築というものは、品質・工期・コストの三つのバランスで成り立っていますが、またしても品質が置き去りにされ、かつ偽装によって取り繕われていました。
建築の関係者として、非常に残念に思います。

 KYB(株)及びカヤバシステムマシナリー(株)が製造した免震・制振オイルダンパーの国土交通大臣認定への不適合」
(平成301016日国交省プレスリリース)


問題になっているのは、「不適合」と「不正」の二つの点です。

・オイルダンパーの減衰力性能の基準値からの乖離値(バラツキ)が、大臣認定や顧客との契約等において許容されている値よりも大きいこと。
・ 適合しない製品について、検査データを書き換えて出荷していたこと。

現時点での国交省・製造会社からの発表と新聞等の報道を前提としたものですが、当事務所なりの問題意識をコメントしたいと思います。
(今後の発表などにより修正する可能性があります)

所有者・利用者・居住者の方々へ

該当する建物については、順次、所有者(居住者)へ伝えられているとのことですが、全体が明らかになるには少し時間がかかるかもしれません。
(10月19日追記)
所有者の了解が取れたものから、製造会社より公表するとのこと。
不特定多数が利用する施設については、早々に所有者側からの公表が始まっており、その影響の大きさに改めて驚かされます。

該当する、又は、該当するかもしれないという免震・制震建物の所有者、居住者、利用者の方々は、今、大きな不安と怒りを抱えていらっしゃることと存じます。
仮に該当している場合は、今後、交換工事など難題に向き合っていかなければなりません。
しかしながら、偽装という不正の問題と、客観的な性能(安全性)は別の問題ですので、まずは、冷静に対応いただきたいと思います。

→ 現時点の安全検証では、特に基準からの乖離が大きい製品でも「震度6 強から7 程度の地震に対して倒壊するおそれはない」とのことです。今後、さらに検証が行われます。

→ 「タンパー」の主な役割は、大地震時の建物の揺れを制御するというものです。
不適合による具体的な不具合として、建物が揺れすぎる(ダンパーが柔らかすぎる場合)、建物部分が損傷する(ダンパーが硬すぎる場合)ということが挙げられています。
大地震・中地震などと一言でいいますが、地震には様々な揺れ方がありますので、その条件が重なった場合に不具合が現実化するものと推察しています。
(この類の報告書を見ている弁護士としての見解ですので、詳しくは構造設計者に相談してください。)

基準法の理解と今後の対応について

不適合には、2つの類型が報告されています。

・大臣認定の内容に不適合があるもの
・大臣認定の内容に不適合ではないが、顧客との契約等の内容に適合しないもの
(発表によれば、免震:大臣認定が±15%以内、顧客との契約が±10%以内等。
 制振:顧客との契約が±10%以内等。制振ダンパーには大臣認定の対象ではないとのこと。)

国交省及び製造会社は、

・認定不適合については、全数交換
・契約不適合については、顧客の意向を踏まえ、交換等の対応を行う。

ことを発表しています。 

認定不適合は、建築基準法が認めている建築材料以外を使用したことになり、その点で基準法違反になります。
認定不適合の原因としてデータの偽装があったことは、大臣認定という製造者の信頼を基礎とする制度の根幹を揺るがす大問題と捉えられています。
国交省は、免震ゴムと同様、あくまで全数の交換を指示・指導していく方針です。

一方、契約不適合の場合、契約違反の問題はさておき、建築材料の点では基準法違反には当たりません。
しかし、構造解析に用いた数値が異なるということになれば、別に検討が必要となります。

例えば、構造解析がNGとなるとか、構造解析によって取得した建築計画の大臣認定に適合しなくなる(基準法違反)ということも、可能性として考えられます。
(この点は、「顧客との契約が±10%以内等」という程度の情報しかないので、何とも分かりませんが…。)
→ 速やかに安全検証することが、国交省から指示されています。

建物としての安全が確認できれば、この点は所有者の意向に沿った解決がなされるものと思われます。 

ダンパーの交換についての課題

ダンパーを含む免震部材は、ピットという地下等の空間に設置されます。
部材の損傷等による交換を前提として、一応は設計し施工されています。
(と認識していますが、現実には形骸化しているようです。)

実際、以前にも免震ダンパーの交換事例があります。
平成13年には、鉛ダンパーの製造欠陥でリコールがありました(全数交換)。
また、東日本大震災後には、想定外の揺れの長さによるダンパーの損傷が確認されています。 

しかし、搬入や作業のスペースや、設備・電気関係との取り合い等の問題により、現実問題としては、非常に困難となるケースも予想されます。
とはいえ、直接、荷重を受ける部材ではないため、免震ゴムとの比較では、総じて負担は少ないように思われます。

一方、制振ダンパーについては、壁の中に設置されることが多いため、交換困難なものが多いようです。

また、今回は、交換対象があまりに多数であるため、交換品の生産が間に合わないという点も指摘されています。
(免震ゴムの件についても、同様の問題が発生しました)
問題の長期化が懸念されるところです。


発生原因については、今後、第三者委員会による究明が進められるとのことです。
引き続き、注視していきたいと思います。

→ 次のコラム:ダンパー不適合の民事責任について