ダンパー不適合の民事責任について


免震・制震のダンパー不適合事件については、まず第1報にて、
・基準法の理解と今後の対応について
・ダンパーの交換についての課題
を述べましたので、今回、民事責任について整理したいと思います。

なお、問題となっているダンパーは、
① 基準法違反(かつ契約違反)
② 契約違反
③ 不明(データ確認できず)
と報告されています。
③も最終的に不明が解消されない場合、①又は②と評価せざるを得ないと思いますが、
ここでは、①と②の契約違反を前提とします。

なぜ民事責任を検討する必要があるのか?

今回、メーカーは、ダンパーを交換するとしています。
交換に伴って発生する費用、損害についても、メーカーが負担する前提です。

そうだとすると、民事責任(誰が誰に対しどのような法的責任を負うのか)という点を、改めて検討する必要は無いようにも見えます。

しかし、民事責任は、交換実現へのプロセス(交渉・調整、費用の立て替え等)に影響を及ぼします。
通常は、まず自らの契約の相手方に対し、対応を求めるのが筋だからです。

また、所有者や賃借人等のユーザーは、事業主・貸主、施工会社等がメーカーとの交渉を行い、交換完了まで責任をもって欲しいと考えるところですが、
古い建物の場合、それが期待できないケースも出てきます(後述)。

さらに、ダンパー交換に附随する費用の当否、間接損害等について当事者の主張がかみ合わず、民事紛争に発展する可能性も否定はできないと思います。

契約の流れと民事責任の整理

エンドユーザーから契約の流れを遡ると、メーカーとの間には何人もの関係者がいて、いくつもの契約が介在していることが分かります。
一般的かつ最もシンプルな形を模式化したのが、下図です。
(実際には、施工会社とメーカーの間に商社や下請が介在していることも考えられます。)

ダンパー性能の契約違反は、契約上の瑕疵を意味しますので、
施工者は補修又は損害賠償義務を負い、売主・貸主は損害賠償義務を負うことになります。
※ ただし、本件で明らかになっている「契約違反」はメーカーとの契約についてであり、ユーザーや事業主との関係では、契約の内容や不適合の程度によって「契約違反」を否定する余地もあります。

メーカーは施工会社に対し瑕疵担保責任を負い、
施工会社は事業主に対し瑕疵担保責任を負い、
事業主はユーザーに対し瑕疵担保責任を負う、
という各段階を経て、ダンパーの交換と損害賠償が行われることになります。

一方、ユーザーや事業主など、契約関係にない者が直接、メーカーに対して責任を問う方法としては、不法行為責任があります。
ただし、ダンパーの瑕疵によって「建物としての基本的な安全性」が損なわれていることの立証など、訴えを起こす側の負担が大きいため、
契約責任として解決できる場合は、そちらを優先することが一般的です。

瑕疵担保責任を問えないケース

まず、瑕疵担保期間の経過が考えられます。
建物の売買、請負の場合、引渡しを起点として、住宅の場合は10年、それ以外では契約で定める期間(2年が多い)です。
なお、ダンパー単体の契約が、瑕疵担保期間をどのように定めていたかは分かりません。

不適合品のダンパーの出荷が始まったのは平成15年(可能性としては平成12年)とのことですので、
瑕疵担保期間が経過している物件も相当数あると考えられます。

また、契約相手が倒産(破産、民事再生等)している場合も、瑕疵担保責任を問えません。

瑕疵担保責任を問えない場合、契約の相手方に対しても、不法行為責任を主張せざるを得ません。
しかし、本件の場合、事業主や施工会社の過失は否定される可能性があり、その場合、事業主や施工会社が行う対応は、法的な義務のない任意協力ということになります。
(社会的・道義的責任は、法的義務とは別のもので、裁判で強制はできません。)

上記の瑕疵担保責任の連鎖が途絶えると、最悪、ユーザーが、直接、メーカーとの交渉に当たらなければならなくなることも考えられます。

メーカーの説明や安全検証には相当の時間がかかる

不適合品を出荷したメーカーには、対象建物、安全検討の結果、今後の対応・予定等について、速やかに説明する必要があります。
この点の関係者の方々のお怒りは当然だと思います。

もっとも、説明についても、上記の契約関係に沿って行われるのが原則であるため、
介在する関係者が多数かつ契約関係が複雑になるほど、情報の伝達には時間がかかります。

加えて、現実問題として、本件の不正件数の多さ、社内・社外の体制構築の難しさなどから、説明にはかなりの時間を要することが予想されます。
(出荷停止の対応にも追われていることと思います。)

特に、建物の安全検証については、構造設計者が、個別に、設計時の構造計算データや再計算などによって、検証する必要があります。
(メーカー自身にその能力はありません。)
免震・制震の技術者が限られていることからみても、国交省が指示したように短期間で全ての検証を終えるのは難しいと思います。

 

大変辛い話ですが、今までの類似の事件から考えると、問題の長期化は避けられないと思います。

→ 前のコラム:免震・制震ダンパー不適合事件について(第1報)